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名古屋地方裁判所 昭和23年(ヨ)347号 判決 1949年2月05日

申請人

安井鉄二 外十五名

被申請人

農和工業株式会社

主文

本件仮処分の申請を却下する。

訴訟費用は申請人等の負担とする。

申請の趣旨

申請人等代理人は、申請人等から被申請会社に対して提起した解雇無効確認訴訟の判決確定に至るまで、申請人等が被申請会社に使用される従業員であり、且つ全日本金属労働組合豊和分会の組合員であることを仮に定める。被申請会社は申請人等に対し申請人等の従来の地位及び身分(その詳細は別紙表示の通り)につき不利益な取扱をなしてはならない。との判決を求める。

事実

(一)、申請人等はいずれも被申請会社の従業員であり且つ同会社の従業員をもつて組織する全日本金属労働組合豊和分会(以下第一組合と略証する)の組合員である。しかして、その被申請会社及び第一組合における地位はそれぞれ別紙表示の通りである。右第一組合はもと全日本機器労働組合豊和分会と称していたが、全日本機器労働組合が全日本鉄鋼産業労働組合及び全国車輛産業労働組合と合同して全日本金属労働組合を組織したため、右第一組合も昭和二十三年十月十一日その名称を前記のように変更したが、その間組合としての実体は毫も変つていない。

(二)、しかるに、被申請会社は最近産別民主化同盟の労働戦線分裂策をとり入れ第一組合の弱体化を企て、まず昭和二十三年十月六日その従業員の一部をして豊和工業労働組合なる第二組合(以下これを第二組合と略称する)を組織せしめ、次いで第一組合がたまたま前示のようにその名称を変更したのを奇貨とし、予て(昭和二十一年十一月二日)被申請会社と第一組合との間に締結された労働協約を一方的に破棄して、昭和二十三年十月十四日その旨通告して来たのである。ここにおいて、被申請会社と第一組合との間には会社の分裂策なる第二組合の成立をめぐつて、労働戦線の統一強化及びその他労働条件の維持改善を図るための労働争議の態勢に突入したのである。

(三)、ところが、たまたま昭和二十三年十月二十七日正午から被申請会社の食堂において前記第二組合の総会が開かれることになつたので、第一組合の組合員である申請人等は是非この機会を利用して、右総会に参集する第二組合員に対し、被申請会社の卑劣なる分裂策を悟らしめ組合団結強化をはかろうとして、第二組合の幹部に対し第一組合員の右総会への合流を申入れた。ところが第二組合の中島委員長その他はこれを拒絶したので、その場に集合した従業員の圧倒的多数約千七百名はこれを不当とし、申請人等主張のような全従業員による総会の開催を熱望し、同一会社において二つの組合が対立してはを競うが如きは不可であるから一致共同して会社に対して闘争すべきことを提案したが時既に食事時間を経過していたので一旦解散した。同日午後一時半、改めて従業員約八百名が参集し「御用組合なる第二組合は被申請会社と絶縁すること、労働運動に対する被申請会社の不当なる圧迫を排除すること、さきに第一組合の拡大執行委員会において決議した(イ)、完成能率給の完全支給(ロ)、強制残業反対(ハ)、作業改善要求(ニ)、職制の民主化の四要求項目の実現を期すること」等を協議したが、右総会に集合した従業員の比較的少数であつたのは、被申請会社が各職場の係長等をして従業員の右総会参集を阻止したためであつたのでこの会社の不法な圧迫干渉を排除することを決議し、約三百名の従業員は隊伍を組んで各職場に向つて示威運動を行い各従業員の総会への参加を勧誘した。この示威運動は極めて静粛に秩序整然と行われ毫も暴力沙汰に及ぶことなく、且つ申請人等中平田、山田、浅野、森崎、鹿島及び川口の六名は右行進に参加しなかつた。

(四)、しかるに、被申請会社は右申請人等の行為をもつて会社の生産作業を妨害する暴動行為なりとして、昭和二十三年十月二十八日申請人等十六名(外に一名)を解雇する旨通告して来たのである。しかし、この解雇処分は、次の諸点よりして絶対に無効である。

1、被申請会社と第一組合との間に昭和二十一年十一月二日締結された、労働協約第六条には「会社が組合員を解雇するには組合と協議する」旨規定されている、しかるに被申請会社はこの条項を無視し組合と何等協議をなさずして解雇行為に出たのである。

2、労働組合法第十一条によると、労働者が労働組合の正当な行為をなしたことの故をもつてこれを解雇できないのである。申請人等の当日行つた示威運動は職制の圧迫により総会参集を欲しながらこれを躊躇している者又は総会の開催を知らない者に対し、総会への参加を勧誘する目的をもつてなされたもので、しかも終始隊伍を乱さず正々堂々と「組合を一本にまとめよう総会に参加しよう」と呼びかけて廻つたのであり、毫も正当なる組合活動の範囲を逸脱していないのである、かかる行為を理由として、申請人等を解雇した被申請会社の処置は明かに違法である。

3、つぎに本件解雇は労働関係調整法第四十条に違反する。申請人等の行つた示威運動は被申請会社が第一組合との労働協約を不当に破棄して第一組合の存立そのものを否認せんとしたことに端を発し、組合擁護のために止むを得ずなされた争議行為である。それは、組合の団結権及び団体交渉権を保持するために極めて必要なる適法な争議行為であつたのである。仮に右行為が違法なる争議行為であつたとしても、労働関係調整法第四十条はかかる場合にも適用され、労働委員会の同意なしには争議行為者を解雇できないのである。この同意を得ずして申請人等を解雇したのはもとより違法であつて効力を生じ得ない。

4、被申請会社は申請人等に対し、昭和二十三年十月二十八日解雇の通告をなしたに拘らず同年十一月十一日に至つて漸く三十日分の平均賃金を供託している。右のような解雇の仕方は、労働基準法第二十条にいわゆる予告手当を支払つてなした正当な解雇とは称し得ないから、この点から言つても本件解雇は効力を有し得ないのである。

(四)、以上のような訳であるから、申請人等は被申請会社を相手どり名古屋地方裁判所に解雇無効確認の本案訴訟を提起したが、右の判決確定を見るに至るまでには相当の日数を要することは明かであり、この間他に収入の途のない申請人等はインフレーション高進下の今日生活に困窮を来すは当然である。申請人等は現在組合の闘争資金により辛じて生計をつないでいるが、右金額は申請人等の従来の給料の二分の一程度に過きず、しかもこの闘争資金も第二組合より仮差押を受け、殆ど使用不可能の状態となつている。なお被申請会社は前記解雇処分の有効なることを前提として、申請人等の第一組合における地位をも否認し、申請人等の組合における地位は甚しく危殆に瀕している。よつて以上申請人等の重大なる損害を避け急迫なる強暴を防ぐため、申請の趣旨記載の仮処分命令を求める次第である。(疎明省略)

被申請会社代理人は、本件仮処分の申請を却下するとの判決を求め、その答弁として次のように述べた。

(一)、申請人等が、もと被申請会社の従業員であり第一組合の組合員であつたこと、同人等の被申請会社及び第一組合における地位がそれぞれ別紙表示の通りであつたこと、昭和二十三年十月二十八日被申請会社が申請人等に対し解雇の通告をなしたことはいずれもこれを認める。

(二)、申請人等は、被申請会社のなした前記解雇処分をもつて無効であると主張するが、右主張は全然間違つている。

1、被申請会社は、昭和二十一年十一月二日当時被申請会社の従業員をもつて組織されていた全日本機器労働組合豊和分会との間に労働協約を締結したことはあるが、右分会はその後解体して組合としての存在を失つた。即ち、現在の第一組合(全日本金属労働組合豊和分会)は右分会とは名称を異にするのみならず、全然これと同一性を有しない組合である。従つて右労働協約第六条は今日被申請会社を拘束する筈なく、会社が右第一組合と協議せずして、組合員を解雇するも決して違法とはならないのである。しかし、仮に右協約が現在被申請会社と第一組合との間に有効に存続しているとしても、次の事由によつて組合と協議を経ることは不必要である即ち、(イ)本件解雇当時は被申請会社の作業秩序が申請人等の無法なる暴力行為によつて混乱の最中にあり、事実上組合と協議をなし得る時間的余裕がなかつたのである。(ロ)解雇すべき相手方は協議の相手方たる第一組合の代表者その他の幹部である。これでは実際問題として、協議を成立せしめ得る可能性は初めから存在しないと言わねばならぬ。(ハ)右協約の規定は被申請会社の経営権ないし人事権を全然否定する趣旨のものではなく本件のような場合には会社の人事権にもとずいて有効に従業員を解雇し得るのである。若し然らずとすれば、会社は組合の同意なき以上、如何なる非行者をも解雇することができぬことになり極めて不合理なる場合を生じ得る。右のような理由によつて、本件の場合協約違背を云為する申請人等の主張は全く当らないのである。

2、労働組合法第十一条は、申請人等の主張するごとく、労働組合の正当なる行為をなしたことの故をもつて労働者を解雇し得ない旨規定している。然し、同様にいわゆる「労働組合の正当なる行為」たるためには、その行為は組合員の意識的行為であつて、且つ行為それ自身具体的に正当性を具えなければならない。本件暴動は申請人平田自ら認めているように、その場の行きがかり上偶発的に起つたものであつて、組合行為又は組合活動をもつて目すべきものは毫も存しないのである。申請人等は、或る工場では電動スイッチを無警告でしや断した。或る工場では棒切をもつてバイス台を強打し機械部分品を踏んだり投げたりした。或る場所では輸出品を組立中の従業員に作業を中止せしめ、塵あいを立てて、精密部分の再組立を余儀なくせしめた。赤旗を先頭とする無政府的混乱は終業時間まで繰り返され、そのため大部分の工員は作業を放てきして逃げ去つたのである労働組合法第十一条は、かような暴徒的行為をまで正当な組合活動として保護する趣旨であろうか。

3、本件解雇は労働関係調整法第四十条に違反しない。元来争議なるものは、労働関係の当事者がその主張を貫徹する目的をもつてなされるものである。即ち、それは労働関係の当事者が相手方に対し一定の具体的主張を持ちこれを貫徹するため意識的に行動するものでなければならぬ。然るに、本件暴動は被申請会社に対する何等具体的要求を包含しておらないのであつて唯単に第二組合員に対する不満の念がぼつ発したに過ぎないのである。又争議行為は公然且つ正々堂々と行わねばならぬのであり、本件のように暴徒自身も予期せずして惹起した無規律極まる暴力行為は、争議行為の観念からは遥かに遠いものと言わねばならない。

4、本件解雇が労働基準法第二十条にてい触しないことは、被申請会社が申請人等に対し解雇の通告をなすと共に、遅滞なく三十日分の平均賃金を支払うべき旨申出でその受領を催告し、申請人等が受領せぬため、止むなくその供託手続をとつた点から言つても明かである。

(三)、最後に、本件仮処分の申請はその保全の理由を欠くものである。即ち、申請人等は現在組合の闘争資金をもつて生活しているのであり、差しせまつて生活の困難はない筈である。仮に生活に困難するとすれば申請人等は前記供託金を受領し又は失業保険法による保険金を受けとればよいのである。なお、被申請会社には現在申請人等に提供すべき職場はないのであるが、若し本案判決確定までの長期間申請人等に対し、従業員たる仮の地位を認めねばならぬとすれば私的営利法人たる被申請会社として到底その苦痛に堪え得ないのである。右のような状態のもとに、申請人等の要求するごとき仮処分を与うべからざるは勿論である。(疏明省略)

理由

本件仮処分の申請は、申請人等が被申請会社に対して提起した解雇無効確認訴訟の本案判決確定に至るまで申請人等が被申請会社の従業員であり第一組合の組合員である仮の地位を定めることを求めるにある。よつて、右仮処分申請の許否を決するに必要な範囲内で、被申請会社が申請人等を解雇した行為の有効であるか否かを判断する。

(一)、申請人等は本件解雇は被申請会社と申請人等の属する第一組合との間に昭和二十一月十一月二日締結された労働協約第六条に違反するから無効であると主張する。果してそうであろうか。この昭和二十一年十一月二日締結されたという労働協約が、右解雇当時被申請会社と第一組合との間において有効なる拘束力を有したかどうかは稍疑問であるが、仮に右協約が拘束力を有したとしても、次の点において申請人等の主張は理由がない。即ち右労働協約第六条にいわゆる「組合員の解雇については組合と協議する」という言葉の意味は、証人水野鋿の証言によつても明かなように組合員の解雇については会社側の独断で行わず、一応組合に話を持ちかけるという程度のものであつて、必ずしも組合の同意を要するという趣旨のものではない。このことは成立に争のない乙第二十九号証及び前記水野証人の証言によつても判るように、最初本協約の草案には、「組合の承認を得て行う」とあつたのを、会社及び組合当事者合意の上で「組合と協議する」と言うふうに字句を訂正した経緯に照して見ても首肯できるところである。申請人等提出のいずれの証拠によつても右認定を左右することはできない。従つて本件において被申請会社が少しも組合の意向をきくことなく会社の独断で申請人等を解雇したことは、その処置の稍妥当を欠くものであることは争えぬにしても、直ちにこれをもつて無効と断ずることは当らないのである。

(二)、次に、申請人等は本件解雇は労働組合法第十一条に違反するから無効であると主張する。しかし、本件解雇が申請人等の言うように、申請人等が「労働組合の正当なる行為」をなしたことを理由としてなされたものであろうか。証人坂野光弌の証言によつて真正に成立したと認め得る乙第八号証(解雇経過概要と題する書面)によると、申請人等が被申請会社により解雇されるに至つたのは、申請人等が、昭和二十三年十月二十七日被申請会社の工場内で他の第一組合員と共に第二組合員に対して不穏行為をなし(第一組合と第二組合の対立の問題については後に述べる)会社の生産作業を阻害したことに基因するのである。即ち、当日正午被申請会社の食堂で第二組合員による総会が開かれようとした際、第一組合員たる申請人等はこれを妨害した上第一組合員を主体とする従業員大会を強行しようとし、その参会者をきゆう合する手段として、会社より再三阻止せられたに拘らず、赤旗を先頭に隊伍を組み口々に怒号しながら第二組合員の作業中の各職場を練り歩き、その作業を妨害したのである。「或る工場では作業中の第二組合員を数名で取りかこみ脅迫的態度をもつて食堂に集まれと強要し、或る工場では電動スイッチをしや断して同様の強要をなし、或る所では無理矢理に従業員をらつ致し或る所では柵の背後にかくれている者を引つぱり出し、或る従業員はこの隊伍をとめようとして作業衣を破られ、或る従業員はこの隊伍の勢に怖れて他の安全な場所へ逃げ去つた」のである。このようにして、会社の生産作業は困難となり事実上作業停止となつたので、各職場の部課長係長及び工長から連名になる決議書が提出され、大多数の従業員の要望として会社の断乎たる処置を求めて来たので、被申請会社は直に各工場における第一組合員の行動を調査した上、そのせん動首謀者として申請人等十六名(外に一名)を解雇処分に付したのである。以上の申請人等の各不穏行為については、証人早川正司の証言、同証言によつてその成立を認め得る乙第十四号証証人坂野光弌の証言によつてその成立を認め得る乙第九乃至第二十四号証(第十四号証を除く)及び証人杉山政一、石垣卯一の各証言によつてもこれを推認するに充分であつて、右認定に反する証人佐藤信秋、東松秀次郎、村岡清次、申請人本人安藤信時の各供述はこれを措信せず、他に申請人等提出のどの証拠によつても右認定をくつがえすに足らない。かかる状況の下において、被申請会社が申請人等を解雇したのは一応尤ものこととして是認され、被申請会社の行為は労働組合法第十一条に違反せず従つて申請人等のこの点に関する主張はこれを採用しない。

(三)、更に申請人等は、本件解雇は労働委員会の同意を得ずしてなされたものであるから、労働関係調整法第四十条に違反し無効であると主張する故、この点について考察する。労働関係調整法第四十条によると、労働者が争議行為をなしたことを理由としてこれを解雇するには労働委員会の同意を得なければならぬことが明かである。本件解雇について、労働委員会の同意を経ていないことは当事者間争のないところであるから、先ずもつて右解雇が申請人等の争議行為をなしたことを理由とするかどうかを検討せねばならぬ。然るところ、被申請会社が申請人等を解雇したのは前述のように、申請人等の属する、第一組合が第二組合の総会開催を妨害した上第一組合を主体とする従業員大会を強行しようとし、その参加者を集める手段として第二組合員に対し無法な強要行為をなし会社の生産作業を著しく阻害したという点に基因するのである。いつたい、被申請会社の労働組合に第一組合と第二組合の別を生ずるに至つたのは、証人石垣卯一の証言及び同証言によつて真正に成立したと認める乙第六、七号証によると、凡そ次のような事情に基くことを看取し得る。即ち被申請会社には昭和二十一年四月頃同会社の従業員をもつて組織する豊和工業労働組合が結成され、同年九月頃産別系に属する全日本機器労働組合に加入しその豊和分会となつた。然るに昭和二十三年四月頃に至り、従来組合内を支配し指導していた極左主義に対する反ぱつとして(産別系労働組合の陣営内に起つた一般的傾向であるが)一部組合員によつて民主化同盟なるものが組織された。しかして同年九月頃、全前記日本機器労働組合が他の二単産と合同して全日本金属労働組合を結成するに及び豊和分会も右金属組合に分会として参加すべきか否かにつき議論が分れ、前示民主化同盟はこれに反対し、この紛争を契機として同年十月六日ついに組合は分裂して第二組合なる豊和工業労働組合が新設されたのである。その後第一組合は絶えず第二組合員の復帰を要望し、諸種の手段をもつて組合の一元化を図りつつ前述十月二十七日を迎えたのである。以上のような訳で、同日における申請人等の不穏行為も要するにその原因は第一組合と第二組合との間の予ての対立抗争に見出されるのであつて、それが偶々ぼつ発して一場の紛じようとなつたものと認めるを相当とする。尤もこれより先、同月十四日被申請会社は第一組合に対し同組合との間の労働協約を破棄する旨通告を発し、両者の間に一種の争議状態の発生していたことは弁論の全趣旨に照し否定し得ないところであるがこの事実と前示十月二十七日における申請人等の行為との間には必ずしも明白なる直接の関連は認め得ないのであつて、申請人等の右行為を目して被申請会社に対する争議行為の一発現となすことは俄かに首肯し能わぬところである。以上の認定にそわない証人佐藤信秋、東松秀次郎、村岡清次申請人本人安藤信時の各供述はこれを措信し得ず、他に申請人挙示の全趣証拠によつても右の認定を左右するに足らない。従つて、被申請会社が右行為を理由として(労働委員会の同意を得ずして)申請人等を解雇したことは、その時期方法等において多少いかんの点はあるが、労働関係調整法第四十条に違反せざるものと言うべく、右行為を無効となし得ない。

(四)、最後に、申請人等は本件解雇は労働基準法第二十条にてい触し無効であると主張する。しかし、成立に争のない乙第二十六号証の一乃至十五及び証人坂野光弌の証言によると、被申請会社は昭和二十三年十月二十八日申請人等に対し解雇の通告をなすに当つては、従来同会社が退職者に対しとつていたと同様の方法により、労働基準法所定の三十日分の平均賃金を用意した上右金員受領のため、直に来社ありたき旨催告し、いわゆる予告手当金の支払につき適法の提供をなしていること及び申請人等が右受領のために来社しなかつたので、被申請会社は止むを得ず右金員を適式の手続によつて供託したことを認め得る。したがつて、被申請会社の右行為は毫も労働基準法の規定にてい触することなく、有効と言わねばならない。

以上のような訳で、被申請会社の申請人等に対する本件解雇行為は一応の判断ながらこれを有効と認める外なく申請人等の本件仮処分の申請は、その被保全権利関係の存在について結局疏明なきに帰することになる。

よつてその保全理由の点につき判断するまでもなくこれを失当として却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用し主文のように判決する次第である。

別紙省略

注、昭和二十四年三月一日控訴申立あり。

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